強力なスパイクを打つ為のスイングとは。
- komodaseikotsuin
- 2017年10月6日
- 読了時間: 10分
今回はスパイクのスイングについて書いていきます。
先ずスパイクとは何か。単純化して考えてみます。
空中で、手を使ってボールを狙った方向へ打つ行為。
もっとシンプルにしていきます。
物体A(ボール)を物体B(手)で弾き飛ばす事。
そう考えると物理です。
ニュートン力学とか・・・難しそうですね。
なので細かい所は省いてなるべく簡略化して、使い慣れた言葉や例えを使って説明していきます。
伝えやすさを優先しますので、物理をしっかり勉強した方は、「言葉の定義が間違っているぞ!」等々の正当なツッコミはお許し下さい。
先に答えを書きます。
ボールを強く弾き飛ばすには、
なるべく硬くて重い物で速く打つ。
となります。
これだけだとイマイチ想像しにくいですね。
例えを使って1つずつ確認していきます。
釘と金槌を思い浮かべて下さい。
金槌(手・腕)を使って、より強い衝撃を釘(ボール)に伝えるにはどうするかを見ていきましょう。
先ずは速さの部分から。
木の板に釘を立てます。金槌をゆっくり下ろしていって釘の頭に金槌の頭を乗せて押していきます。
これでは釘はなかなか板に入っていきません。
ではどうするか。
金槌を素早く振り下ろして釘の頭を叩きます。
振り下ろす速度、速さが重要になる訳です。
続いて硬さについて。
また木の板と釘と金槌でいきます。
金槌の頭の部分が、ピコピコハンマーのようなモノでできていたらどうでしょう。
釘の硬さに打ち負けて変形してしまうか、跳ね返されてしまいます。
もちろん柄の部分にも同じ事が言えます。
打つ側の硬さが重要になる訳です。
最後に重さについて。
これも同様に釘と金槌でいきます。
もし金槌全体が中身の空洞なプラスチックだったら。
いくら速く降って打ちつけてもなかなか釘は入っていきません。
打つ側の重さが重要になる訳です。
以上の事を人の体に戻していうと、
①スパイクを打つ腕を速く振る事。
②スパイクを打つ手を硬くする事。
③スパイクを打つ腕を重くする事。
となります。
①は分かりやすいですが②③はちょっと解り難いですね。
ではどのようにして速さや硬さ、重さを出していくのか、実際の動作を通してみていきます。
先ずは【①速さ】について。
どうすれば腕をより速く振れるか。腕を加速させる事ができるか。
もう少し物理法則を足していきます。
図1・図2を見て下さい。


図1・肘を伸ばしきった状態で腕を振り下ろしてボールを叩く。
図2・肘を曲げた状態から上腕部の動きを先行させ、上腕の長軸がボールに重なる直前で肘を伸ばしていきボールを叩く。(振り下ろす上腕部を急激に止めて前腕部を伸ばして叩くとも言えます。)
どちらがボールを叩く寸前の手の速度が速いでしょうか。
やって頂ければわかりますが図2のやり方です。
これは二重振り子運動の原理です。
ちなみに、上腕部をA、前腕部をB、肘を連結部分(支点)とした場合、AよりBの質量が小さい方がより速度が出ます。
長くて重さのある棒の先に、それより短くて軽い棒を連結させて振った方が、先に付いている棒の動きが速くなります。
さらに、この連結を増やすとその分、速さを増していきます。
手の先にもう1つ手をつけるという訳にはいかないので、
実際の動作では上腕部の手前、体幹部の運動を加える事で増やします。
体幹部の運動、肩関節で連結、上腕部の運動、肘関節で連結、前腕部の運動、ボールを叩く。
という順に連動させていく事で加速させていきます。
長くて重い棒、それより短くて軽い棒、体幹部、というワードが出てきたので、それらと関係がある話を付け足していきます。
長くて重い棒、それより短くて軽い棒、それぞれ個別に振った場合、より速く振れるのはどちらでしょうか。
短くて軽い棒です。
これをスパイク動作における体幹部の動きに置き換えて考えていきます。
足を腰幅に開いて立ち両手を胸に置きます。
その体勢からお辞儀をするのと、振り向く様に上体を回旋させるのはどちらがより速く楽に行えるでしょうか。
振り向き動作です。
お辞儀動作では股関節から頭までの長さの棒を振る事になり,振り向き動作では肩幅の長さの棒を振る事になるからです。
さらに言えば、前後運動を主体とすると、長い棒の先に重たい頭という重りをつけて振る事になり、とても非効率です。
体幹部の運動は、前後運動(お辞儀)より回旋運動(振り向き)の方が速く出来ます。
以上の事から、腕を加速させる為の体幹部の運動は、回旋運動を主体とした方が、より腕を加速できる事になります。
実際には単純な回旋運動ではなく、屈曲(体を前に倒す)や側屈(体を横に倒す)も合わさっていきますが、割合としては回旋をメインに行う事で、最も腕を速く振る事が出来ます。
それでは一連の流れで見ていきましょう。
バックスイングから腕を振り上げ終わったあたりからみていきます。
打ち手側の肩を前方に出して行くように体幹部を回旋させる動きからスタートし、
少し遅れて上腕部が体幹部の動きにつられて出てくるようにします。
その上腕部の運動につられて前腕部が出てきて、ボールを叩くタイミングに合わせて肘を伸ばしていく。


というようになります。
この《つられて》や《遅れて》が重要な理由は振り子の加速を利用する為です。
だからこそ、各支点(関節)の柔軟性が大切で、しなやかなフォームのアタッカーのスパイクは強力なのです。
補足としまして、体幹部を回旋していく際に、打ち手側の肩を前に出す事を意識するより、伸ばしてある反対側の腕と肩を素早く引きつけてくる事を意識すると、体幹部をクルッと回しやすくなります。
この様にして、三重の加速を使って効果的に腕の最終速度高めていきます。
次に【②硬さ】を飛ばして【③重さ】にいきます。
実際に腕自体の重さを変える事はできません。
ではどういう事かというと。
できる限り余す事なく体の重さを伝えていく。
という事になります。
図4を見て下さい。

この状態でボールを叩いたとします。
肘の位置を軸にして前腕部を振りボールを叩くと、前腕部の重さだけでボールを叩く事になります。
かなり軽いですね。
次に図5を見て下さい。

肩の位置を軸にして手を振りボールを叩きます。
こうすると、腕全体の重さでボールを叩く事が出来ます。
少し重くなって来ました。
もっと重くしていきます。
図6を見て下さい。

少し分かりづらいですが、この打ち方の軸は左の股関節になります。
ですので、左の股関節から対角線に右の手までの重さでボールを叩く事になります。
こうするとかなり重くなりますよね。
では実際のスパイク動作として考えた場合の流れを見ていきましょう。
図6の位置から、そのまま体を後ろに反らせて戻してくる。
というのはダメです。それでは速度が出ません。
なので【①速さ】のところで作り上げた順に(図3参照)しっかり加速させながら図6の形を作り上げていき、ボールから返ってくる反動が1番高くなる瞬間に合わせて図6の形を完成させ、最大の重さで打ちきるわけです。
注意点として、手から腕のラインと肩から対角の股関節のラインがなるべく一直線になるようにします。
その為に、打ち手側と逆の肩を必要十分に下げます。
このラインが崩れると、重さが分散してしまいます。
最後に【③硬さ】について考えていきます。
実際にボールに衝撃を与えるのは手首から先の部分になります。
ここをより硬くするという事は、パーではなくグーで打つのが一番です。
しかしそれでは、ボールコントロールの面で犠牲が大き過ぎます。さらに体への負担も考えるとかなり危険です。
ではどうするか。
始めにだした金槌の例を思い出して下さい。
手の形は、金槌の頭の部分の事です。
頭の形をイジるのは諦めて、柄の部分に着目していきましょう。
柄の部分の硬さも重要です。
図7を見て下さい。

金槌の頭の部分が手。手から左の股関節までのラインが金槌の柄の部分と考えます。
ボールを打ち出す瞬間、強度的に1番不安になるのは体幹部と腕の繋ぎ目にある肩関節です。
ここが不安定だと、金槌の柄でいえばそこから折れてしまうことになります。
ですからここをしっかり強くしておきます。
肩関節が構造的に最も強さを発揮する特別な角度があります。
それがゼロポジションです。
ゼロポジションについて細かく説明をしていくと、さらに話が長くなってしまうので、腕の位置どりだけ書いていきます。
図8を見て下さい。

両手を頭の後ろです組みます。上腕部の位置をそのままにして肘を伸ばしていきます。このとき出来上がる肩甲骨と腕の位置関係がゼロポジションです。

「こんな低い位置じゃスパイクなんて打てないよ!」
なんて思いますよね。
そうです。バレーボールのスパイクは打点の高さを求められます。
なので、肩甲骨と上腕部の関係性はそのままに、打ち手側と逆の肩を下げていき、打ち手側の肩を引き上げていきます。体を打ち手側と逆側へ傾けます。

これでゼロポジションを保ちつつ打点の高さを確保できます。
これで柄の部分の強度(硬さ)を高められました。
既に気付いている方もいると思いますが、この打ち手側の肩を上げていく動作も、打ち手側と逆の腕と肩を引きつける動作を主体に作ります。
右打ちのプレーヤーを想定した場合、単純に左肩を引いてきて右肩を前に出すのではなく、
バックスイングから腕を振り上げてくる時点で左体側をリードさせ、ネットに対して左肩前、右肩後ろの前後差と、左肩上がり右肩下がりの上下差も作ります。
前上方にある左腕と肩を、後下方に一気に引きつけていく勢いを利用して体幹部の回旋と右肩と腕の動きを作る意識です。
両サイドに水掻きが付いているオールでボートを漕いでいく時のオールの動きが1番近いイメージでしょうか。
以上でボールに強い衝撃を与える事に特化した、重くて硬くて速いスイングの完成になります。
これらの動作を最適のタイミングで連動させていく事でボールに強力な衝撃を与えるスパイクになります。図3参照
ダラダラと長くなってすいませんでした。
スイングの一部分を切り取ってみていくだけでこれだけの内容になります。
つまり練習ではこれ以上の事を意識し、修正を重ねていく訳です。
スパイク全体をみる場合、これに助走、バックスイング、踏み込み、踏み切り、フォロースルーなど全てが重要になります。
さらにプレー中になれば、自分のポジション、トス、ブロック、レシーバーの位置などでスパイクに求められる内容も変わります。
それに言うまでもなく、威力だけでスパイクは決まりません。
バレーボールって奥が深いですね。
今回はスパイクスイングの力学的な視点を重視して書いていきました。
実際の動作ではここに、骨格の特性や筋肉同士の繋がりなど、人体の構造的なセオリーを足して作り上げていきます。
運動の方向も複合的で複雑です。
しかし、だからといって今回書いた内容が大きくズレている訳ではありません。
人間の身体も同じ物理法則の働く空間で形成されて来たからです。
自分の身体の個性をしっかりと理解したうえで、いかに自分の身体を効率良く効果的に使えるか。
これはどのスポーツにとっても根源的な要素です。
この部分を大切にして行く事で、より良い結果を掴む可能性を高められ、不用意なケガを防ぐ事ができるのだと信じています。
最後になりますが、今回提案したフォームはかなり強力なパワーを生み出します。
裏を返せば、誤ったやり方をすればそれだけ身体にかかるダメージも大きくなります。
出来る事なら、人体の構造を理解し、年齢や性別、個体差を考慮して見てくれる人がいる環境で取り組む事をお勧めします。
長文を最後まで読んで頂きありがとうございました。
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